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男性不妊情報
前回精液所見の正常値の意義について、WHO基準の求め方をご紹介しました。
(前回の記事はこちらを参照ください。)
この基準値の問題点として、解析されたデータの中に日本人の所見が含まれていないという点や、妊娠したカップルの精液所見を参考にしているため、そのまま不妊治療の指標として用いて良いのかという点があります。
そのような観点から、当院ではWHOの基準と並行して当院独自の基準も用いています。本日は当院の基準値はどうやって決めたのか解説したいと思います。
基準値を決めるにあたっては当院で人工授精を行ったカップル2619周期の精液所見データを解析しています。
精液所見データは、精子運動自動解析装置(SMAS)を用いて数や運動率だけでなく運動のスピードや直進性なども評価したものを用いています。
精液所見の各因子について妊娠率を求めました。例えば上の図では直線速度と妊娠率の相関を見ています。速度が上がると妊娠率も緩やかに上昇する事がわかります。
続いて、妊娠率が上昇するポイントを設定してその前後で妊娠率を比較しました。例えば上の図では0.36を基準とした場合、その前後で妊娠率が違う事が分かります。
これを各因子について行って、各因子ごとに基準値とその前後で実際に妊娠率に差があるかを解析しています。
上の表がその結果になりますが、これを見ると人工授精で妊娠するには数だけでなく速度や直進のパラメーターが重要であることが分かります。
当院の精液所見の基準値はこのようにして求められています。つまり、
・日本人のデータを基にした、人工授精では妊娠率が低いと思われる精液所見
を目安にして治療介入の指標としている訳です。
という事でWHOの基準値と比べて、より現場に近い基準となっていると考えています。
当院の精液所見の基準値について疑問を持たれた方の参考になれば幸いです。
(文責:医師部門 江夏徳寿、理事長 塩谷雅英)
過去の記事もご参照ください。
(文責:医師部門 江夏徳寿、理事長 塩谷雅英)