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男性不妊情報

精液所見の正常値ってなに?(その1;WHO基準の場合)

男性不妊の検査として最も重要な意味を持つ精液検査ですが、その基準値について考えられた事はあるでしょうか?

精液所見が悪い方に良く聞かれるのが

「この値では自然に妊娠は無理なんですか?」

という質問ですが、無精子症でない限り可能性はゼロではありません。では精液所見の正常値とは一体何者なんでしょうか?

その事を理解するために、逆に正常値とはどのように決まっているかを解説いたします。ちなみに当院ではWHO(世界保健機構)の基準と院内の基準の二種類を使い分けていますが、今回はWHOの基準について述べたいと思います。

この基準値の基になった研究が2010年のHuman Reproduction Update誌に掲載された “World Health Organization reference values for human semen characteristics” (ヒト精液所見におけるWHO参照基準値)という論文です。
この研究では14カ国4500人の男性を対象に精液検査を行っています。

 

この研究の大事なところは、1年以内に妊娠したカップルと、妊娠しなかったカップルを分けて精液検査を解析しているところです。

上の表は1年以内に妊娠したカップルの精液所見になります。

ここでは、各精液所見についてパーセンタイル表示を行い下位5パーセンタイルの値を基準値の境界線と決めています。

つまり、所見の各項目を小さい順に並べて全体の5%以下の値を異常値と定義しています。

 

 

この方法は一般的な採血データの基準値の決め方と似ています。

上記グラフを見ていただきましょう。測定値を並べていき、上下2.5パーセンタイルを除いた95%の範囲が正常とされています。

採血データは高すぎても低すぎても良くない値が多いので、このように両端を切った基準値が設定されていますが、精液所見は高すぎて問題になる事はないので下位5%だけ切った基準値が設定されている訳です。

 

 

 

続いて、精液所見の因子ごとに妊娠状況によって比較しています。

これを見ると、1年以内に妊娠しているカップルの総精子数は、他の群より多くなっています。

その様な背景から、本検討に用いられた1年以内に妊娠した群の精液所見を基準として設定されているようです。

ということで、精液検査の基準値は
・1年以内に妊娠したカップルの精液所見の下位5%で決められている。
でした。
ただ、この基準値を作るのに用いられた4500人のデータの中に日本人は含まれていません。

人種が違えば当然データも変わってきますので、この基準をそのまま日本人に当てはめて治療の指標とするのは正しいのか疑問のあるところです。

そのため、当院では独自の基準値も用いています。
次回は当院の基準値の意味についてお話ししたいと思います。

 

過去の記事もご参照ください。

男性の精液所見に悪影響を及ぼす生活習慣は何か?

アルコールは精子に悪い?

禁欲期間は何日が最適?

喫煙は実際にどれくらい精子に悪い?

(文責:医師部門 江夏徳寿、理事長 塩谷雅英)

参考情報