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新鮮胚移植と凍結融解胚移植。妊娠率が高いのはどちら? 解析の結果を見てみると

体外受精や顕微授精を行った後にそのまま移植を行うか、一旦凍結してから後日移植を行うのかの判断は時に悩ましいものです。

 

では、実際の妊娠率はどれくらい違うのでしょうか?前回からはその様な疑問にお答えするような研究を紹介しています。

Freezing of all embryos in in vitro fertilization is beneficial in high responders, but not intermediate and low responders: an analysis of 82,935 cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology registry

(凍結融解胚移植は高反応の症例で有益であるが、それ以外では明らかな有益性が無い:82935周期の解析)
前回はこの研究の患者背景についてお話ししました。

 

では、妊娠率がどうでしょう。

 

 

これを見ると妊娠率において採卵数15個未満の2群で新鮮胚移植の方が高くなっています。

 

また、流産率は少し凍結融解胚移植群の方が高いようであり、結果として出産率では新鮮胚移植の方が成績が良くなっています。

 

一方で、採卵数15個以上の群においては凍結した方が妊娠率がやや高く、流産率に差がないため、結果として凍結融解胚移植の方が出産率が高くなっています。

 

という事で、結果として凍結融解胚移植の方が良いのは採卵数15個以上の高反応群においてのみという結果になっています。

思ったより新鮮胚移植の成績が良くてやや驚きですが、この論文には一つ重大な欠点があると考察されています。

それは、採卵時の採血データが分からないため卵巣過剰刺激症候群を避けるためにわざと凍結したのか、施設の方針で凍結したのか分からないという点です。

ランダムに治療方針を決めたのでないため、結果を単純に比較するのが難しいのです。

さらに言えば、移植時の採血を見てPが低かったため移植を回避して凍結したものも含まれるという点です。

 

Pが低いという事は黄体機能が不十分という事ですから、採卵の時期に卵胞が十分に成熟していなかった可能性があります。この様な症例では未熟卵が多くなり、妊娠率が下がる事が考えられます。

 

患者背景のところで述べた成熟卵の個数が凍結群で少なかったという事実はこの事を反映しているのかもしれません。
という事で、結論としてはやや控えめに
・凍結融解胚移植は採卵数が15個以上の症例において有用だったが、それ以下では明らかな有益性は見られなかった。
となっています。実は3年前に同じ雑誌にFreeze-all policy: fresh vs. frozen-thawed embryo transferという論文が掲載されており、この時は凍結胚移植の方が成績が良かったため、体外受精は全例凍結すべき。というやや極端な論調になっていました。
今回の論文では、全例凍結はやっぱり極端な話でそこまでしなくていいのではないか?と意見を述べている感じです。また、アメリカでは凍結方法が未だにスローフリージングであったり、ガラス化法の技術が不十分であったりするので、凍結技術が進んでいる日本においてはこの結論をそのままあてはめる事はできないと思われます。
そんなこんなで、この論争はまだしばらく続きそうですね。また進捗があれば報告したいと思います。
 

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新鮮胚移植と凍結融解胚移植。妊娠率が高いのはどちら? 海外のデータでは

新鮮胚移植? それとも 凍結胚移植? どちらがいいのでしょう?

ハナブロテーマ 「胚移植」

ハナブロテーマ 「凍結融解胚移植」

ハナブロテーマ 「二段階胚移植・SEET」

 

(文責:[医師部門] 江夏 徳寿 [理事長] 塩谷 雅英)

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