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受精卵のDNAの半分は精子から~精子力と受精卵の質の関係 胚盤胞発生や染色体異常の割合は

以前、AMHの値でわかること。シリーズ(下方のリンクよりお読みいただけます)で紹介したように、女性の年齢や血中AMHの値は受精卵の質(受精卵の染色体正常率)に関連する事が明らかになっています。

これは卵子の持っているDNAの質が、加齢やAMHの低下と共に悪化するためと考えられますが、それでは精子の質はどのように関係しているのでしょうか?
ご存知のように、受精卵のDNAの半分は精子由来ですので精子の質も影響しているように思えますが、実際に調査した研究をご紹介したいと思います。

Effect of the male factor on the clinical outcome of intracytoplasmic sperm injection combined with preimplantation aneuploidy testing: observational longitudinal cohort study of 1,219 consecutive cycles

(顕微授精における染色体正常胚の割合と精子所見の関係:1219周期の縦断的観察試験)

この論文はイタリアのMazzilli氏らが2017年にFertility and Sterility誌に発表した研究です。

この研究では顕微授精を行った1219周期を対象として、精液所見が正常群、軽度不良群、不良群、閉塞性無精子症、非閉塞性無精子症の5つの群にに分けています。

得られた受精卵は胚盤胞になった時点で着床前診断(PGT)を実施して染色体診断を行っており、正常胚と診断された胚については移植し、出産まで経過を追って調べています。

 

まずは精液所見別にみた顕微授精の結果になります。

上の図を見ると受精率、胚盤胞発生率については精液所見正常群と比べて、他の群では成績が悪くなっています。

 

しかしながら、着床前診断による染色体正常率を見てみると、全ての群で有意な差はありません。

つまり、精液所見が悪いと胚盤胞までなりにくいが、一旦胚盤胞になってしまえば、受精卵の質自体は悪くないと考えられます。

 

 

続いて、同様の解析を女性の年齢別にみています。

上のグラフは左からN:正常群、MMF:乏精子症、OAT-S:高度乏精子症、OA:閉塞性無精子症、NOA:非閉塞性無精子症と群分けしています。

これを見ると、特に女性の年齢が38歳以下の場合で精液所見が悪い群での受精率、胚盤胞発生率が低くなっています。

逆に女性の年齢が39歳以上の場合は精液所見が正常な群でも胚盤胞発生率が低下する傾向にあり、精液所見による差はやや小さくなっていると考えられます。

これは、グラフの上についている*(精液所見正常群と結果に差があればつく)の数が38歳以下の方が多い事からも分かります。

一方で染色体正常/胚盤胞の割合はどの年代においても有意な差がついておらず、どの年代においても胚盤胞になってしまえば染色体正常率は精液所見と相関しない事が確認できます。
次回は精液所見別に胚移植後や妊娠後の経過がとどうなるかについてお話ししたいと思います。

 

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(文責:[医師部門] 江夏 徳寿 [理事長] 塩谷 雅英)

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