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男性不妊情報

がん患者さんの妊孕能保存のためにできること その3

がん患者さんの妊孕能保存のためにできること その1 その2では次のようなことをお話してきました。

 

若年性のがん患者さんの場合、強い抗がん剤治療によって、卵巣機能や精巣機能が無くなってしまうことが多くあります。

最近ではがんが治った後の事も考えて治療する事が主流になってきています。

男性では抗がん剤治療前に精子を凍結する事が推奨されます。

女性の場合は抗がん剤治療の前に卵巣自体を摘出して凍結しておいて、

抗がん剤治療が終了し、がんが根治した事が確認できたら、凍結していた卵巣を自家移植するという方法がとられることがあります。

 

前回、28歳時にホジキンリンパ腫と診断され、複数の抗がん剤治療終了から2年半後に女性は凍結していた卵巣を下腹部の皮下に移植された症例を紹介しました。

その論文は以下のものです。

Four spontaneous pregnancies and three live births following subcutaneous transplantation of frozen banked ovarian tissue: What is the explanation? (凍結卵巣の皮下移植後に4回自然妊娠し、3回出産した症例:どう説明すればよいのか?)
タイトル通り女性はその後半年で月経が回復し、4回の自然妊娠を経て3回出産しました。

今回はその方の経過を少し詳しく見てみましょう。

 

この方の経過で驚くのは、卵巣組織を皮下に移植したのに自然妊娠しているところです。

論文のタイトルにわざわざ「どう説明する?」と書いてあるように、治療にあたった医師にとっても驚きだったようです。

 

 

 

上のエコー写真で見ると、卵胞が皮膚と筋肉の間で育っている事が分かります。

なぜ元の卵巣の位置に移植しなかったのかというと、皮下の方が低侵襲で移植でき、術後の卵胞の観察などが容易であるからと述べられています。
とはいえ、この位置に移植して自然妊娠できるとは考えておらず、当初は体外受精を予定していたところ自然妊娠が得られたということで、患者さんにとっても医師にとっても嬉しい誤算だったようです。

論文では、本症例が妊娠したメカニズムについては今後も研究の必要があると述べられていますが、現時点では人体の神秘というものを感じます。
長年医師をしていると、時々予想以上の治療効果が出て驚く事がありますが、そんな時は本当に嬉しいものです。うまくいきますように!そんな想いを込めながら日々診療にあたっています。
以前の記事もご参照ください。

がん患者さんの妊孕能保存のためにできること その1

がん患者さんの妊孕能保存のためにできること その2

 

(文責:[医師部門] 江夏 徳寿 [理事長] 塩谷 雅英)

参考情報