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男性不妊情報
前回、性欲に直接作用するホルモンを投与する事によって覚せい剤の様な副作用を引き起こすことなく性欲を高める事ができるのではないかという研究についてご紹介し、キスペプチンとはどんなホルモンかというお話をしました。
Kisspeptin modulates sexual and emotional brain processing in humans
(キスペプチンは性的、情緒的な脳の活動に作用する)
これはイギリスのComninos氏らによって2017年のJournal of Clinical Investigation誌に報告された研究です。
今回は、キスペプチンが性欲にどのように作用するのかについて見てみたいと思います。
上の図は機能的MRIを用いて、脳の血流を解析してアダルトなビデオを見た時の反応を調べています。
これを見るとキスペプチン投与群の方が左扁桃核、前帯状皮質、後帯状皮質といった性的興奮によって反応する部位の血流増加がより大きいという事が分かります。
続いて、性的表現を含まないロマンティックなビデオを見た時の血流を解析しています。
これを見ると、先ほどの左扁桃核、前帯状皮質、後帯状皮質に加えて視床、淡蒼球での血流がキスペプチン投与群で有意に上昇している事が分かります。
これはロマンティックな愛に対する反応が増強していると解釈されるそうです。
いずれの解析でも共通している事は、脳の主要な機能部位である大脳辺縁系には影響を与えていないという事です。
実際に視覚、聴覚、運動検査や言語、計算といったテストに関してキスペプチンは影響を与えなかったということです。
これは、覚せい剤の様な副作用を伴わずに性機能を活性化する可能性を示唆します。
また、ネガティブな気分を抑える効果からうつ病の治療にも使える可能性があるのではないかと述べられています。
キスペプチンは生殖医療の世界では非常に重要なホルモンですから、今後実臨床への応用が進み、治療薬として使われる日が来るのかもしれませんね。
以前の記事もご参照ください
バイアグラは勃起を維持する薬 その仕組みと気をつけることについて
(文責:医師部門 江夏 徳寿、理事長 塩谷 雅英)